written by 紗月瞠様
キミの味
素敵な企画に、僭越ながら参加させていただきました。 ヒロインがある人と共謀して、サプライズでキラを祝う話です。ストーリー、およびデートのネタバレはなしです。 主催様、ならびに他の企画参加者様に、最上級の感謝を。 参加できて楽しかったです。有難うございました。! ◆◇◆◇は、時間の経過、およびシーンの移動を表しています。
「………こちらで待ってください。
キラはあなたが来ることを知りませんから、先日打ち合わせした通りに」
シンさんが部屋を出ていく。
控え室に通された私は、抱えていた箱をそっと撫でた。
クッキー、プリン、バースデーケーキ………。
甘いお菓子で埋めつくされた茉白のケーキボックス。
この日のために有休をとった私は、本人には内緒で彼のドラマ撮影の現場へ来ていた。
先日、アンナさんに無理を言ったとき、彼女は嫌な顔ひとつせずに了承してくれた。
『良いですよ、社長………少し寂しそうにしていましたし』
からかうように口にしながら、優しく笑ってくれた。
「………キラ、喜んでくれるかな」
シンさんとの共謀計画を胸に、私はひとり微笑んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「………キラさん、スタンバイお願いします」
ドラマの衣装に身を包んだオレは、胸元のロゴにそっと触れる。
(ポテチ姫……最近忙しそうだな………。)
同棲をはじめたばかりの頃は、時折だがふたりでゆっくり過ごす時間もとれていた。
けれど、近頃は朝早くに出勤して、深夜近くに帰宅している。
(寂しいけど、頑張ってる彼女にそうやって言うのは我儘だ)
今回のドラマは、好きなひとのためにショコラティエになった男性の話だ。
甘い匂いに包まれながら、同じ香りを纏う彼女を想う。
(ポテチ姫………。)
気高く芯が強くて、けれどどこか抜けている面もあって。
誰よりオレのことを想ってくれて。
多忙な毎日だけれど、彼女の笑顔を想えば頑張れる気がした。
(いつだってオレは、キミの笑顔に救われてきたんだよ)
チャリ……と音がして、襟の上から首元を押える。
そこには彼女とおそろいのネックレスがあった。
(この撮影が終わったら、いちばんキミに会いたいよ)
「………キラ、準備はできているか」
シンさんの言葉に、オレは挑戦的な笑みを返す。
「うん。いつでもいいよ」
オレの言葉に、監督に目配せするシンさん。
「じゃ、始めるぞ。
3、2、1………。よーい、………アクション!」
「『んー!美味しい!』」
ショコラケーキを口に運び、恋人役は幸せそうな笑みを浮かべた。
「『………気に入ったなら何より』」
唇にかすかなカーブを載せ、くすりと笑みを零した。
「『………クリーム付いてる』」
唇の端をなぞると、彼女は瞠目した。
「『あ、ありがとう』」
頬を染める彼女を柔くみつめた。
「『………試作品だったんだけど、味はどう?』」
言いながら、指先についたクリームを舐めとる。
「『とっても美味しいよ。
ラズベリーがアクセントになってて、クリームも甘すぎなくて』」
言いながらフォークで切り分ける。
幸せそうな笑みを浮かべる彼女にそっと微笑いかけた。
「『再来週も味見してくれる? お前の意見は凄く参考になるから』」
「『…………! うん、勿論!』」
顔を見合わせ、微笑いあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「カット! OK!」
声がかかり、オレはほっと息をついた。
「キラ、お疲れ様!」
「キミもね、ルビー」
ぱちん、と手と手を打ち鳴らし、微笑い合っていると。
ブツン。なにかが切れる音とともに、視界が黒く塗りつぶされる。
「キラ、誕生日おめでとう!」
その声とともに、スタジオへと足を踏み入れる影。
彼女の後ろには、ワゴンを押すシンさんの姿もあった。
「ぽ、ポテチ姫………!」
驚くオレに微笑いかける。
「シンさんとのサプライズなの。一番に祝いたくて、皆に協力してもらったんだ」
たまらない思いがして、彼女を引き寄せた。
「き、キラ………ッ?」
ぎゅ、と痛いくらいに包み込む。
「ありがとう、ポテチ姫………。」
頬に触れた手に、みずからのそれを重ねた。
「………今日だけだぞ」
箱をひらくと、中身はオレの好きなもので埋めつくされていた。
クッキー、プリン、バースデーケーキ………。
「楽屋にいこう………ポテチ姫」
差し出した手を繋ぐ。
「うんっ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
控え室に入ると、後ろから抱きしめられる。
「キラ………?」
名前を呼ぶと、さらに強く包み込まる。
「これからもオレの傍にいて。………大好きだよ」
「私も………ずっとあなただけが好き」
自然と唇が重なる。
ふれた唇は、はじめてのキスと同じ味がした。
さづき みはれ、成人済 好きなものを心のままに。 そんなスタイルの字書きですが、どうぞよしなに。

